一人ひとりを最期まで、チームで見守る「総合診療科」

今年度から、都農町国民健康保険病院「総合診療科」チームに新たに加わった楠元恭子先生、坂口大介先生のお二人に総合診療医になったきっかけ、都農町における地域医療の理想について話を伺いました。

―総合診療医になろうと思ったきっかけは?

最期にみんなが後悔しないようにしたい

(楠元)

5年間暮らしていたオーストラリアでGP(General Practitioner)と呼ばれている総合診療医に触れたのがきっかけでした。

患者さんは、まず最初にGPに診てもらい、専門医がいる病院に紹介状を出してもらうしくみになっています。

私はもともと麻酔科医師だったのですが、総合診療医というと、人と人とのディープな付き合いの中で、深みにはまっていくイメージをもっていました。

オーストラリアでは医者から離れていた時間もあったのですが、日本人のお知り合いから、子どもの具合が悪いのでどうしたらいいか相談されることも多く、自分が専門的な道しかわからない医者になっているなぁと感じていたところでした。

オーストラリアのGPは、赤ちゃんからおばあちゃん、妊婦さんまで、専門分野なく、全員をみるんです

その姿に刺激を受け、総合診療医を目指そうという気持ちが芽生えてきました。

日本に帰ってきてから、総合診療医として働いて勉強しようと思い宮崎大学で学びました。

実際にやってみると、総合診療医の仕事はとても面白く、特におじいちゃん、おばあちゃんをみるのはとてもよかったです

大学一年生の時に、父を亡くしていて、辛い思いをしたことから、家族の気持ちもすごくわかるし、どう看取れるかについても、やりがいをすごく感じているので、私が、いまできる仕事だと思っています。

最期にみんなが後悔しないようにしたい。そんな思いで毎日、患者さんに接しています。

一人の患者さんのことをすべて診ていたい

(坂口)

医者になろうと思ったきっかけは、高校1年生の時に見たテレビドラマの「Dr.コトー診療所」でした。

コトー先生のモチーフになった瀬戸上先生は救急医だったので、宮崎大学に入学するときは救命救急科に進もうと思っていました。

在学中に、大学の先輩(3月末まで都農病院に勤務していた総合診療医の枝元先生)から家庭医療を学ぶサークルの立ち上げにたまたま誘われて、吉村先生と出会い、総合診療医に興味を持ちました。

吉村先生にあった最初の印象は「この先生の生き方は、Dr.コトーだ!」でした(笑)。

総合診療医をいいなと思った理由の一番は、地域から必要とされる人であること。

住民から、地域にいてほしいと思われる医師になりたかった。

なにか困ったことや、事故にあったとき、あるいは性教育まで、とにかくいろんなライフステージに関わっていき、目の前に困っている人を助けるのが医者としてあるべき姿だと思ったんです。

私のじいちゃん、ばあちゃんが西米良村に住んでいます。

今は村の病院に長く勤められている片山先生や、自治医大のDr.が派遣されて、困った時はすぐに相談できます。

けど、もしも、村の病院が無くなったら、ちょっとしたことでも1時間以上かけて病院に通院しないといけないし、死亡診断書を書いてもらうために、亡くなった人を遠くの病院まで救急車で運ばないといけないんだって思って。

生きたい場所で生きて、死にたい場所で死ぬという選択ができない可能性があるんだなと。

そうした生活、人生を支えていける医師は、専門家として一個尖っているより、一人の患者さんのことを全部診ていて、専門的な治療が必要なときは外に送り出すけど、なにか大きな変化があるときには自分が診る人でいたいと感じます。

僕もそんな医者になりたいと思っています。

―これから都農町、地域とどのような関わりかたをしていきたいですか?

患者さんの仕事で大変なことや、地域の情報ネットワークを知りたい

(楠元)

地域に根ざしている看護師さんやスタッフの方々から、町や地域の情報をなるべくたくさんもらうようにして、患者さんの状態や、町の話を聞くところからはじめています。

今後は町民向けの講座として、健康増進や禁煙のおすすめなどもしていきたいですね。

(坂口)

講座で町民との接点が増えていくと、相手がわかったうえで、病気になったときに相談してもらえるので理想的です。

健康体操にも参加して、町民のみなさんが、どのように健康を意識しているのか、自治会長さんは、どうやってみんなに情報を伝達しているのか、地域ネットワークのしくみを知りたいですね。

(楠元)

町民がどういう生活をされているのかも体験してみたいです。

畑が大変で肩が痛いという患者さんが多くいらっしゃいますが、私自身が農業のことを全然知らないので、畑の仕事を体験しておけば理解が深まります。

(坂口)

牛の解体のお仕事をやっている患者さんがいて、いつも腕がパンパンに腫れていて痛がっていました。

1日に何十頭もさばくのは大変そうだなとは思うけど、実際どれくらい大変なのかは、やったことがない自分では想像しかできない。

実際にどれくらい大変かやってみたいです

相手の仕事や、ライフスタイルについて理解することはすごく重要だと考えています。

―これからやってみたいことは?

自宅や施設でも、お看取りできる町に

(坂口)

自宅で亡くなれる人を増やしたい

そのために緩和医療や緩和ケアを勉強していきます。

なにかあれば都農病院があるので安心して、自宅で治療や療養ができるようになるといいですね。

(楠元)

私も同じで、「施設のお看取りも増やしたい」と思っています。

医療と介護が連携して、病院じゃなきゃだめ、にはしたくないです。

「生きる」の延長が「死ぬ」だから

行政や地域一体となった医療体制をつくりたい

(坂口)

小さい頃から、困った時に病院に行けばなんとかしてくれる、ここにいけばいいよ、という安心感があると、最期も困ったときはそこにいけばよい、と思ってもらえます。

例えば、先日診た患者さんも、「院長先生にずっと見てもらっているから、院長先生に診て欲しい」、という方がいました。

人生をかけて、その人の人生を診るっていうのはこういうことなんだなとすごく感動しました。

僕もそんな存在になりたいですが、自分の家族やライフサイクルを考えると、同じように勤め続けるのは難しいです。

患者さんとの信頼関係を先生一人でつくるのではなく、チームでつくらないと、その先生がいなくなってしまうと途切れてしまいます。関係をつないでいける医療体制をつくりたいですよね。

(楠元)

都農町は、地域に根ざしている看護師さんやスタッフの方々をはじめ、行政の方々も、ものすごく協力をしてくださいます。私たちのような新しいメンバーにもウェルカムで「助けます!」という雰囲気をいつも感じさせてもらっているので、すごくやりやすくてありがたいです。

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