「制度がない」で終わらせない。新たな“アクション”と“プレイヤー”で地域課題を解決

 日本のすべての都道府県・市区町村に設置されている「社会福祉協議会(以下、社協という)」。住民が住み慣れたまちで安心して暮らせる「福祉のまちづくり」の実現を目指し、地域の特性に応じたさまざまな活動を行っています。

 宮崎県の南西部に位置する三股町には、「コミュニティデザインラボ(実践支援研究室)」という独自の組織を設置して地域課題の解決に取り組んでいる社協があります。

 今回は、コミュニティデザインラボの所長・松崎亮さんが、つの未来会議Season3に登壇された際の講演内容を記事化させていただきました。

 講演のテーマは「まちづくりと社会福祉」。これを読んだら「社協」のイメージが変わるかもしれません。ぜひ最後まで読んでみてください!

つの未来会議とは…

 立場や年齢に関係なく、幅広い層の人たちがまちづくりの“当事者”として議論を交わせる場を作ろうと、都農町のまちづくりを手がける株式会社イツノマが開催しています。

 Season3のテーマは「都農高校の活用企画」。廃校活用や多世代共創のヒントを提供してくれるゲストとともに、都農町の未来について話し合っています。

(つの未来会議の詳細はこちら

「コミュニティデザインラボ」とは?

 社協では一般的に、既存の制度やサービスを用いて困りごとを抱える人を支援しています。しかし、ときにはそれが適合しなかったり、そもそも当てはまるものがなかったりして、解決策が見出せないケースが存在していました。

 三股町の社協内にあるコミュニティデザインラボは、そうした既存の制度・サービスが当てはまらないような困りごとを解決するために設置された組織です。地域住民とともにアイデアを出し合い、新しい“活動”“プレイヤー”を生み出すことで地域課題を解決しています。

 コンセプトは「自分たちのまちを、自分たちで楽しく」「考える場・魅せる場・出会う場」の3つの場をつくり、その相関関係で課題の解決や新たな価値の創造を行っています。

  1. 考える場 → 一つひとつの課題を検討する会議を開催。福祉専門職だけで集まったり、多分野の地域住民が集まったりと、課題に応じて参加メンバーが変化
  1. 魅せる場 → すべての活動に人の興味・関心を惹くような名前を付け、デザイナーがロゴを作成。Webページや行政の広報物も「参加したい」「楽しそう」と思ってもらえるようなデザインに
  1. 出会う場 → 地域課題と人をつなぐ場として、カフェスタイルの「comeking space co-me(コメーキングスペース コメ)」を運営

これまでに関わった事例と活動

 ここからはコミュニティデザインラボが実際に関わった3つの事例と活動を具体的にご紹介します。

事例1:現代の雇用システムになじめない大家族のお母さん

 コミュニティデザインラボは5年ほど前、生活保護基準よりも厳しい水準で暮らす10人家族のお母さんとつながりました。そのお母さんは「働きたい」と思っているものの、現代の一般的な雇用システムが合わず、働くことができない状況でした。

 コミュニティデザインラボはこの課題を解決するために「社会問題井戸端会議」を開催。地域課題に興味があるさまざまな分野の人たちが集まってアイデアを出し合い、実際に行うアクションまでを考えました。

 お母さんは「ミシンが得意」という強みを持っていたため、「キママなものづくりと働き方を考える」をテーマにしたところ、以下のアイデアが提案されました。

・廃業する衣類生産工場のミシンがある

・地域の空き家がある

・地域のセレクトショップに参画してもらう

 これらのアイデアをかけ合わせて生まれたのが「KIMAMA PRODUCTS(キママプロダクツ)」という活動です。

 キママプロダクツは、現代の雇用システムになじめない方などと一緒に、工業用ミシンを使って“気まま”なものづくりをおこなうガレージメーカーです。

 素材にはタイベックやスピンネーカーなど軽く、水に強く、強度のあるアウトドアファブリックを使用。ものづくりの楽しさを感じながら無理せず働くことを大切に製品を作っています。

(コミュニティデザインラボホームページより)

 この活動によって、大家族のお母さんは毎日作業場に通えるようになりました。また、多様な人との接点が増え、さまざまな相乗効果が生まれています。

同じように困っていた他のお母さんもメンバー入り

製品がポップアップショップやセレクトショップで扱ってもらえるようになった

活動を知った建築資材メーカーが資材や廃材を提供

 →資材・廃材をバックやポーチに生まれ変わらせるプロジェクト「資ZAIHAI材」が誕生

事例2:必要な人に支援が届いていない

 従来の社協は、困っている人に自ら足を運んでもらう「店舗型」の支援。そのため、「そもそも個別支援のスタートに来れない人がいる」という課題がありました。

 そこでコミュニティデザインラボが始めたのが、月に1回生活に困り感を持った世帯に無料で食材を届ける「こども宅食」です。これは「つながるためのデザイン(アウトリーチ)が必要」「支援が届きにくい層の興味・関心を惹くのは生鮮食品ではないか」と考えたからでした。

 一般社団法人こども宅食応援団が2020年に行ったアンケートによると、こども宅食を利用している1015世帯のうち、8割以上が「地域の支援サービスを利用していない」と回答。

 また、虐待によるこどもの死亡事例の約半数は、行政などの子育て支援サービスを利用していない世帯で発生しています。サービスを利用したことがある約3割の世帯も、生後4ヶ月までの乳児がいる家庭を訪問する「こんにちは赤ちゃん事業」などの一時的な利用のみ。

 つまり、虐待死事例の約8割は継続的な子育て支援サービスを受けていない世帯で起きていることになります。

 このように必要な人に支援が届きにくいのは、社会にさまざまな制約や障壁が存在しているためです。以下はその要因を4つに分類したものです。

  1. 心理的障壁   例)利用しにくいサービス名
  1. 周囲のまなざし 例)生活が厳しい状況を周囲に知られたくない
  1. 物理的な制約  例)サービスを利用するには平日の9:00〜17:00に窓口に行かなければならない
  1. 情報の届け方  例)回覧板で情報発信

 コミュニティラボは「こども宅食をとにかく気軽に利用してほしい」という思いから、要件を2つのみにして対象家庭を拡大

「生活が大変」と感じる家庭(利用したい人の主観でOK)

18歳以下のこどもがいる三股町在住の家庭

 また、「うちよりももっと大変な家庭がある」「なんだかもらいにくい」などと思わせないような“魔法の言葉”が必要と考え、「どうぞ」という言葉を用いて「みまたん宅食どうぞ便」と名付けました。その他にも気軽に利用してもらえるよう、さまざまな工夫を凝らしています。

親しみやすい世界観・キャラクター

スマホから簡単に申し込み可能

誰もがもらって嬉しいナチュラルな食品

地域の農業生産法人や個人農家が食品ロスを提供

保健師と連携して若年層の子育て世帯に「みまたん宅食どうぞ便」の紙媒体を配布

管理栄養士が作成した簡単レシピを封入

 コミュニティデザインラボは現在この活動を通じて約80世帯・280人と定期的につながっています。また、利用者との関係性を築くなかで、「こどもが不登校」「金銭管理が苦手」といった、個別の困りごとを打ち明けてくれるようになったといいます。

 事例1は個別支援から新たな活動が生まれたケースでしたが、事例2は反対に「みまたん宅食どうぞ便」というアウトリーチから新たな個別支援へとつながっています。

事例3:空き家の有効活用×高齢者の買い物支援

 ある日コミュニティデザインラボの職員が酒店を営む女性に話を聞いていると、「お店の隣のスペースが空いているから使わないか」という提案が。

 コミュニティデザインラボはそのスペースを有効活用しようと、再び「社会問題井戸端会議」を開催。三股町から本屋がなくなったことや、職員の「本がある空間は可能性がある」という意見から、「地域に開かれた“本のある空間”をつくるには?」をテーマとしました。

 しかし、本だけで集客や収益化を図ることは難しいと考え、地域住民にも話を聞いてみることに。すると一人暮らしの高齢者から「惣菜があるといいな」という意見が聞かれました。

 そこでコミュニティデザインラボが考えたのは「小規模多機能な公共空間」をつくること。目的の有無に関わらず気軽に行くことができる『学校の購買部』をイメージしてつくったのが、「樺山購買部」でした。

 樺山購買部が目指すのは、「高齢者・こども・おもしろがり力の高い人が来れる場」「人と人との関わり代が生まれる場」。これを実現するためには「フック」が必要と考え、さまざまなしかけを施しています。

一人暮らしの高齢者の「買い物の場」として惣菜や弁当を販売(おもしろがり力の高い人や若い世代も来れるようなものをセレクト)

寄付してもらった文房具をこども向けに低価格で販売

私設図書館のようなしくみのある本スペース

地域の行事を“フェス”という魅せ方にして「餅フェス」を開催

ごみ屋敷や亡くなった人の自宅を清掃する際に出てくる新品の日用品などを「謎の市」で販売

 樺山購買部でも多様な人との接点が増え、新たな活動へとつながっています。

常連の男の子をモチーフにしたキャラクター「樺山坊や」が誕生。さまざまなグッズを作成

生活が困窮している男性に樺山購買部で販売するパンを取りに行く役割を担ってもらい、代わりに売れ残った惣菜等を提供

コミュニティデザインラボを運営して分かったこと

福祉の“おしつけ”ではなく「くらしに潜ませる」

 2018年からコミュニティデザインラボの運営に携わってきた松崎さん。その経験から分かったことが2つあるといいます。1つ目は「福祉をおしつけるのではなく、くらしに潜ませる」ということ。

 例えば、「社協の人が福祉の居場所にいる」という状態ではなく、「樺山購買部の人は社協の人らしい」という状態。福祉をくらしの中に潜ませることで、関われる層が増えていくといいます。

 また、これは「ナッジ(nudge)」という行動経済学の理論に基づいています。英語の「nudge」は本来、「(合図を送るために)肘で軽くつつく」「軽く押す」という意味。強要するのではなく、自然に良い方向に行動するよう導く方法がナッジです。

 人はまず直感的に情報を捉えて、あとから論理的な情報を入れます。だから福祉分野に人やリソースを集める入口は「楽しい・おいしい・おしゃれ・かっこいい・おもしろい」がいいと思います。「コミュニティデザイン」のような思考が必要です

支援は“医療モデル”と“占いモデル”

 松崎さんが伝えたかったことの二つ目は、「支援は“医療モデル”と“占いモデル”」ということ。事例1でいうと、「働けなくて経済的に厳しかった大家族のお母さんの生活状況を改善できた」というのが“医療モデル”。

 一方、「『ミシンが得意で素敵なものをたくさん作れる』というお母さんの隠れていた価値を発掘できた」というのが“占いモデル”です。松崎さんは「こうした価値創造のようなことも支援の一つだと考えると、福祉領域でもできることがたくさんあると思います」と話されていました。

 コミュニティデザインラボは「2025年までに200の活動と2025人の地域活動者を生み出し、地域住民の活動で地域課題を解決すること」をミッションに掲げています。ホームページではたくさんの活動が紹介されていますので、気になる方はぜひご覧になってみてください。


コミュニティデザインラボのホームページはこちら

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