町民との交流や他職種との連携を深めて、より地域にひらけた病院に
2024年は、天赦日(てんしゃび)・一粒万倍日(いちりゅうまんばいび)・甲子(きのえね)・天恩日(てんおんにち)の4つの吉日が重なった「最強開運日」からのスタートとなりました。皆さんは今年1年をどのような年にしたいですか?
今回つのまるのとりくみ取材班は、都農町国民健康保険病院の桐ケ谷大淳(きりがやだいじゅん)院長に、昨年の振り返りと今年の抱負などについてインタビューをおこなってきました。
2020年に宮崎大学医学部に開設された都農町の寄附講座「地域包括ケア・総合診療医学講座」の特別准教授でもある桐ケ谷院長。今年はコロナ禍の影響で実現できていなかった3つのことに取り組みたいといいます。はたしてその内容とは?ぜひ最後まで読んでみてください!
卒業生が医師となって再び都農町へ
——2023年は新型コロナが和らぎ、徐々に正常化し始めた年だったと思います。昨年を振り返ってみて、どのような1年でしたか?
桐ケ谷院長(以下、敬称略):5月に新型コロナが5類に移行して制限が緩和されたところもありますが、今もときどき患者さんが入院されてきますので、病院はまだまだ十分気をつけながら運営している状況です。
地域包括ケア・総合診療医学講座の方は丸3年が経ち、卒業生が研修医となってしっかりと成長している姿が見えてきています。「都農ファーストプログラム」という長期臨床実習を第1号で受けた卒業生が次年度から医師3年目になるのですが、専門医研修に総合診療を選んでくれました。まだ次年度どこで研修するかは決まっていませんが、ゆくゆくはまた当院に来て、今度は医師・専攻医という立場で研修をしてもらえる形になりそうです。
——一番理想的な成果になりそうですね。
桐ケ谷:そうですね。当院で学んだ学生が医師免許を取得して初期研修を終え、今度は医師として戻ってきてさらに成長してもらえるような流れができているのは非常に嬉しいです。
また医学部には「地域枠」という制度があり、医師免許を取った宮崎県出身者が一定期間県内で働くケースが増えてきています。地元で働く人も今以上に増えてくると思うので、地元に戻ってもきちんと成長できるよう各地域で教育体制を整えていくことが大学としても大事だと考えています。
町民への情報発信の必要性
——町民の方々の総合診療医の浸透度・理解度について何か感じていることはありますか?
桐ケ谷:かかりつけの患者さんは引き続き通院してくださっていますし、初めて診察する患者さんも以前より増えてきているので、少しずつ口コミなどで広がってきているのかなという実感はあります。
——町民の方々は総合診療医のメリットをどのように理解されていくのでしょうか?
桐ケ谷:体のどこかに不具合があるとき、例えば腕が痛かったら「整形外科かな」、発疹ができていたたら「皮膚科かな」というのは分かりやすいと思うのですが、内科系の症状の場合は特に、何科にかかればいいのか分かりにくいことがあると思うんですよね。
「胸が痛いんだけど、循環器科なのか呼吸器科なのか分からない」というときに、「とりあえず総合診療科で診てもらおうか」と気軽に来てもらえるようになると嬉しいです。地域にひらけた病院として、ある程度敷居が高くない状況で診ていけたらいいなと思いますね。
——在宅医療の認知度はいかがですか?
桐ケ谷:在宅医療は特に在宅緩和ケア、自宅でのお看取りを希望される患者さんや、他の医療機関からの紹介が増えてきています。それから医療と介護の連携が進んできたこともあって、近隣の高齢者施設でのお看取り、最期を施設で過ごされるケースもこの数年で増えてきています。
——町民の方々にはどれぐらい知られているものですか?
桐ケ谷:まだまだ私たちの情報発信が不十分かなと思うところがあります。現在パンフレットを作っていて、近隣の施設や医療機関、ケアマネージャーさん、介護関係者の方に宣伝していこうという動きはあるのですが、患者さんや住民の方々にも宣伝が必要ですよね。
——選択肢が増えるので町民の方々にとってもプラスの情報だと思います。
桐ケ谷:当院に総合診療科ができる前年は、宮崎大学医学部の地域医療・総合診療医学講座の吉村教授と私で町内の公民館を何ヶ所か回って、生活習慣病などの健康にまつわる話や、人生の最終段階をどのように過ごしますかという話をしていました。その中で在宅医の紹介もしていたんですよ。
コロナ禍ではなかなか時間が取れませんでしたが、今後は地域に出向いて座談会やミニ健康講座をすることも情報発信としては大事だと考えています。
4年間の経営強化プランを作成中
—— 昨年最大の成果・トピックでいうと、どのようなことが思い浮かびますか?
桐ケ谷:病院を次年度以降も持続可能性を持って運営できるように、4年間の経営強化プランを作り始めました。経営コンサルタントの方にも入ってもらいながら、ポストコロナでどのように運営していくのか、中期計画・青写真を職員たちと作っています。それが今後の病院運営・経営の羅針盤になるので、次年度以降しっかりと実行していきたいですね。
——前向きな改善という感じでしょうか?
桐ケ谷:そうですね。いろいろな指標を見ると、町民の方や入院患者さんが町外の医療機関に流れてしまっています。当院としてできる限りのことをしていきたいです。
——町外に流れている原因は専門性が関係していますか?
桐ケ谷:もちろん領域別専門医に診てもらった方がいい場合もあるので、私たちも紹介をおこなっています。その点についてはやむを得ない部分もあるのですが、当院でも診れる病気で町外に入院されている方もいらっしゃるんですよ。地元でもしっかりと診れる体制を作っていると思うので、なるべく当院に来てもらえるようにしたいです。
病院外で町民や他職種の方々に会う機会を増やしたい
——「今年はこれにチャレンジしたい」という抱負はありますか?
桐ケ谷:新型コロナが落ち着いてきたので、町民や他職種の方々と健康問題などについて一緒に話し合ったり考えたりする場を増やしていきたいですね。
昨年の後半ぐらいからは月に1回、保健医療・介護福祉の関係者が集まって一緒に勉強する「つのまるケアミーティング」というとりくみを始めたんですよ。今年もそれを継続したいと考えています。
それから、役場の福祉課でも住民向けの講演会などを企画されていますが、当院で協力できるところがあれば、連携を取りながら一緒にやっていきたいです。月に一度の勉強会も共同で主催する形になると、町にとってもプラスになるのではないかなと思っています。
——最後につのまるの読者の方々へ向けて、新年の決意表明やメッセージをお願いします。
桐ケ谷:コロナ禍のここ数年は、病院の中でだけ地域住民の方々とお会いしていた形でしたが、これからは病院外でも会えるような機会を作りたいと思っています。
また、地域包括ケア・総合診療医学講座はこの数年、総合診療医の育成が中心となっていて、もう一つの地域包括ケアの方は新型コロナの影響もあり、地域の他職種の方々と連携・相談をする場を十分に設けられませんでした。
講座には当初から「①医療の提供、②医師の養成、③多職種連携と人材育成、④地域の課題解決に取り組む、⑤まちづくりのお手伝い」という5つの柱があります。コロナ禍で後半の3つに取り組めていなかったので、今後はしっかりと実行していきたいです。
それから今年は辰年ですよね。私は“年男”なので、個人としても頑張らなくてはいけないなと思っています。