総合診療医が果たすべき役目は「隙間」を埋めること|日南市立中部病院・三浦先生インタビュー

「この症状はどの専門科で診てもらったらいいんだろう」

そんな時に窓口となって多角的に診てくれる医者が、「総合診療医」です。必要に応じて専門医への橋渡しも行います。

今回インタビューに答えてくれたのは、日南市立中部病院で総合診療医として働く、三浦拓先生です。三浦先生は一度医者の道を離れ、キャリアチェンジをされた経験があります。

自らも「紆余曲折があった」と語る現在までの道のりは、どのようなものだったのでしょうか。

三浦先生に総合診療医になるまでの経緯や、今後の働き方などについてお話を伺いました。

一度医者を辞めてでもやりたかった「医療政策」の仕事

——三浦先生はコンサルティング会社にキャリアチェンジされた経験をお持ちですよね。まずはその会社に行こうと思った経緯を教えてください。

医学部4年生の時に「医療政策クラークシップ」という企画に参加しました。これは東京大学大学院とNPO法人「日本医療政策機構」、コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」がタッグを組み、全国から20名の医学生を集めて2週間の合宿で医療政策を学んでもらう企画です。

この企画が非常に楽しくて、「いつか医療政策を仕事にできる立場になりたい」と思いながら、初期研修や後期研修にのぞみました。しかし、いざ研修が始まるととても忙しく、「この仕事をしていたら医療政策に関わることができないな」と感じたんです。そこで「一度医者を辞めてでもやってみよう」と決意し、転職しました。

私が入社したのは、病院経営のコンサルティング事業のために急性期病院の診療データを吸い上げている会社でした。社長が「診療データを活用してこれから医療政策的な提言をしていこう」という見込みを持っていたので、私を雇ってくれた形です。

——そこからまた医者に戻ろうと思ったのはなぜですか?

私の母は都城で祖父の代から続く「共立医院」という診療所の副医院長をしています。母は「息子がいずれ継ぐだろう」と見込んでいたんですよね。それまで口に出すことはなかったのですが、私の転職が小さくない心配をかけてしまったようです。

地元で頑張る母を尊敬していましたし、東京で働き続ける見通しもなかったので、コンサルティング会社の社長には早々に「3年で答えを出して地元に帰ることになるかもしれません」と伝えていました。3年間である程度やり尽くしたので、実際に戻ってきたという感じです。

——医者になって最初の頃は「いずれ開業医を継ごう」と思っていましたか?

一番最初の頃は、母も「継がなくてもいいよ」みたいなことを言っていたんです。私は小児の心臓に興味があったので、「小児循環器をやりたい」と思っていました。それで最初は小児専門医を取るべく聖路加国際病院の小児科で研修を受けたのですが、先ほどお伝えした流れになり、「母が心配なら地元に帰った方が良さそうだな」と思いました。

また、私が勤めていたコンサルティング会社は、DPC(診療群分類包括評価)を導入している全国の約1500病院のうち、700超の病院のデータを持っていました。それを分析していると、8割の一般的な疾患に関しては「だいたいどこも同じことをやっていて、同じようなパフォーマンスを出しているな」ということが見えてきたんです。

もちろん、小児がんのような特殊な疾患については聖路加国際病院がナンバーワンだと思います。しかし、私がこれから診ようとしている小児や成人の一般疾患については「どこでやっても一緒だな」という結論に至ったので、地元に帰る選択をしました。

——小児科に関心を持たれたきっかけは何でしたか?

私の母は地域での必要性から、一般内科とともに小児科の診療も行っています。専門医ではありませんが、特に呼吸器、ぜんそくの子どもたちをたくさん診ていました。その流れから小児一般疾患もカバーするようになったんです。

小さい頃に母の人気ぶりを聞いて、「小児科の先生っていいな」という漠然とした思いを持っていました。

1ヶ所に留まらず、自分がやりたい医療を実践していきたい

——今後はどのような働き方をされる予定ですか?

現在、共立医院は「有床診療所」という状態で、私は週に2回勤務しています。また、最近同世代の先生2人と私でトリオを組み、「できるだけ個々の負担を減らして持続可能性を高めた在宅診療を都城・三股でやっていこう」という取り組みも始めました。

今は週に2回、2人の先生の手伝いをしている形なので、将来的には都城の在宅診療、ひいては自宅で呼吸器管理をしていたり、栄養をチューブで管理したりしている小児の慢性疾患のケアまで手が伸ばせたらなと考えています。

——柔軟な働き方ができるのですね?

常勤先を決める必要はありますが、実家であれば週に2回の勤務でも常勤先として認められています。これは私の有利なところだと思います。ただし、交渉して条件を勝ち得て、満足できる仕事・やりたい仕事ができるかどうかは自分次第です。

日南市立中部病院は、私がやりたい総合診療的な外来と在宅診療、特にがんの末期の患者さんを診ることができるので、一番合っていると思います。

開業医の場合は私ほど自由な働き方は難しいかもしれませんが、宮崎大学医学部の「ALL MIYAZAKI総合診療専門研修プログラム」であれば、それぞれに特色のある病院・地域をローテーションするので、さまざまな力を身に付けることができます。

専門医を選んだとしても自分のやりたいことを突きつめていける場所がある、かつそうした背景を持った先生たちから学ぶことができるプログラムだと思います。

——開業医と総合診療医の相性についてはどのようにお考えですか?

あらゆる疾患を一番最初に診て、必要であれば専門科に紹介するという“かかりつけ医”の機能は、まさに総合診療医が果たすべきところです。総合診療医は一般内科や小児科を診るトレーニングを積むので、地域のかかりつけ医になるにはうってつけだと思います。

——これまでの経験から、総合診療医は「もっとこうなっていくべき」という考えはありますか?

総合診療医であるからには、自分と専門医との隙間を埋めるべきです。例えば、泌尿器科の先生が抗がん剤を使った治療を行っていて、その治療によって血圧が上がった患者さんのケアまでは手が届いていないケースがあるとしたら、総合診療医がそれを拾って経過を聞きながら薬の調整をするということです。

今はまだ隙間が多いところを埋めるだけですが、今後はより高いレベルでシームレスに渡したり受け取ったりできるようになることが、総合診療医が果たすべき役目だと思います。

——例えば50歳になった時、どうなっていたいというイメージがありますか?

都城でのトリオの活動は、若い先生を呼び寄せて人数を増やしたり、その先生がやりたいスタイルの開業を応援したりと、「人を育てるグループでありたい」という目標があります。私は1ヶ所で同じ仕事をするのが性に合わないので、実家の診療所は複数人で回しながら、都城や日南などのエリア内で自分のやりたい医療を実践していきたいですね。

——新たな先生を雇うには診療所の経営を安定させる必要があると思います。何かコツのようなものはありますか?

基本的にはニーズに応えるのが一番だと思います。最近で言えば、新型コロナの診療をできるだけ断らずにスムーズに行えるよう院内の感染対策を徹底したり、入院は受け入れられないけれども外来でできることはすべてやるという体制を作ったりすることがとても大事です。

また、平時にもゆっくりと動くニーズがあります。小児の慢性疾患が増えてきたらそこに合わせたり、今後は高齢化が進んでいくので良い形で年を重ねていけるようなサポートをしたりといった対応を考えています。

かかりつけ医制度や在宅医療の推進で、総合診療医に“波”が到来

——総合診療医の仕事の魅力は何でしょうか?

一番の魅力は、自分の専門外だからと断らなくていいところです。まず診てみて分からなければ知っていそうな先生に相談すればいいですし、カバーできない範囲であれば専門医に紹介できます。

——やりがいを感じるのはどんな時ですか?

私は一度診た患者さんが「再度受診してくれるかどうか」が大事だと思っています。特に開業医・かかりつけ医をしていると、自分のやったことが良かった・効果がなかった、患者さんが怒っている・喜んでいるといったことがよく分かります。

専門医が悪いというわけではないですが、患者さんが他のところへ行ってしまうと、自分に対するフィードバックがない状態ですよね。救急医も状態を良くして送ることが前提です。自分がやったことに対して反応が返ってくる環境も、総合診療医であることの魅力の一つだと思います。

——総合診療医がこれから世の中でより必要とされていくとしたら、それはどのような理由だと思いますか?

やはり高齢化の進展で疾患が多様、かつ多重になっていくという理由です。それと同時に少子化も進んでいくので、将来的には小児科が単独では生き残れない時代になるのではないかなと思っています。小児科の先生たちが総合化することも少し期待したいところです。

すでに小児科の入院については「拠点化」と言って、地域の施設に患者さんや先生を集めてそこで効率良く診るという流れがあります。外来ではまだそうした流れはありませんが、いずれは細まっていったり、一般の開業医も小児科を診るので単独では厳しい状況になったりするのではないかなと思っています。

——総合診療医の認知度は高まってきていますか?

国の医療政策ではかかりつけ医の制度を推進しているので、今後はイギリスのGP(General Practitioner)制度のように、一度かかりつけ医を通してから専門医に行くという流れに絞られていくと思います。そうなるとかかりつけ医の総合性が非常に重要になってきます。こうした流れは総合診療医の後押しになっていると思いますね。

また、医療費削減のために在宅診療はとてもプッシュされています。在宅診療を担うのも総合診療医なので、「波が来ているな」と感じます。

——最後に、医学生へメッセージをお願いします。

人間は基本的に好きなことしかできない仕組みになっています。総合診療医が少しでも「いいな」と思った方はぜひ足を踏み入れてみてください。きっと楽しい世界が広がっていると思います。

反対に、「専門を持った方がいいんじゃないか」という不安を持ったまま入るとあまり良いことはありません。一度専門に行ってから総合診療をながめた方がいいと思います。できるだけストレスのない診療を目指しましょう。

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