総合診療は「医者になってよかったな」という経験を重ねられる仕事|都農町国民健康保険病院・䅏田先生インタビュー

日本で急速に進行する高齢化。併存する複数の領域の疾患や生活背景にある課題を総合的に診ることができる医師の確保が求められています。厚生労働省においても「総合診療医」を養成・確保するため、「総合的な診断能力を持つ医師養成の推進事業」をはじめとした、さまざまな事業が実施されているところです。

今ご覧いただいているローカルけんこうメディア「つのまる」のとりくみのコーナーでは、数ヶ月にわたって宮崎県内で総合診療に従事されているさまざまな先生のインタビュー記事を掲載しています。

今回インタビューに答えてくれたのは、都農町国民健康保険病院で総合診療医として働く䅏田一旭(のきたいっき)先生。䅏田先生はプライベートでは3児のパパで、育児休業を2度取得された経験の持ち主でもあります。そんな䅏田先生に、総合診療医の仕事の魅力や育休取得の経緯などについてお話を伺いました。

複数の診療科にまたがって診られることが魅力

——まずは総合診療医の魅力を教えてください。

何かの臓器や分野に特化した専門性はないけれども、複数の診療科にまたがって診ることができるのが魅力だと思います。

都農町も含め、地域にはすべての診療科がそろっているわけではありません。でも、そうした地域にも患者さんはいます。まずは総合診療科に相談していただいて、必要であれば専門医へ相談したり、地域で完結できる内容であれば完結したりといった形で医療を提供できるのはやりがいを感じますね。

——総合診療医として患者さんからこんな感謝の言葉をもらったというエピソードはありますか?

よく言っていただけるのは、「困ったときにまず相談できる相手として先生がいてくれてよかった」「安心した」といった言葉です。あとは、都農町から遠くの病院へ長く通っていたけれども年齢を重ねてそれが難しくなった患者さんや、通院の送迎をしていたご家族などに、「近場で診てくれる先生がいて安心」「便利でありがたい」と言っていただくこともあります。

——人口約1万人の過疎化する町で「役に立っているな」と思うのはどんなときですか?

町内唯一の入院施設として、新型コロナや入院の診療、救急医療などで役に立てているのかなと思います。特に思うのは在宅医療の分野です。多くの方が「自宅で最期を迎えたい」と思っているけれども、叶えられない方も多く、在宅医療の支援体制が充分には整えられていないことはとりくむべき課題として感じました。

都農町に来てからの取り組みの結果なのか、令和2年度のデータでは都農町の在宅看取り率が高くなり、県内で第2位となっています。そうしたデータを見ると、地域へ役に立てているのかなと思いますね。

地域住民をまるごと診る「地域医療」との出会い

——䅏田先生が地域医療に関心を持ったきっかけは何でしたか?

僕が知っている医者は、地域にいる“町医者”のようなイメージでした。「そういう医者になるにはどうしたらいいんだろう」と思ったときに、医学生や初期研修医である間に、モデルケースになるような地域医療に従事する先生たちに出会えたので、「やりたいな」と思いました。

——そうした先生たちとの出会いはいつごろだったんですか?

最初は、学生のときに地域医療の実習で椎葉村に行ったんですよ。そこで見たのは「地域医療」の形でした。

椎葉村の先生は小児の予防接種から、高齢者の入院診療、成人の診療など、年齢や病気に関わらずその地域に住む村民さん達をまるごと診ていたんです。「こういう医療の形があるんだな」「自分が知っている医者のイメージに近いのはこっちだな」と思いました。椎葉村の医療との出会いは衝撃的でしたね。

——東京出身の䅏田先生が宮崎の地域医療に関心を持ったのはなぜだと思いますか?

“かかりつけ医”のように、患者さんが一番最初にかかる医療は、地域によってそれほど大きくは変わらないと思います。椎葉でも東京でもそれは共通するところだと思います。

違いで言うと、東京の方が病院も先生の数も多いので、患者さんが選んで相談をするということができるかもしれません。でも、地域に行けば行くほど医者の数は少ないですよね。そうなるとより総合的に診る専門性が求められるので、「おもしろそうだな」「やりがいを感じられそうだな」と思いました。

納得できる“プロセス”を踏めるかが重要

——実際に高齢者の方とどのようなお話をされているのですか?

かかりつけ医として関係性が築けてきたら、人生会議のように「最期をどう過ごしたいか」について患者さんと話すきっかけをどう作るか考えたりしていますね。

大前提として、日本人はそういった話をするのが“タブー”のような風習がありますよね。でも、元気なときだからこそ落ち着いて考えられるというメリットもあるんですよ。

外来でお話しする中で、「万が一病気が悪くなったときはどういう治療をしてほしいですか?」「こういう治療はしてほしくないという希望はありますか?」「家族と話したことはありますか?」といった感じで話しています。

結論にあまり重きを置きすぎないようにしているんです。一緒に考えるプロセスが重要だと考えています。最期にどのような治療をする・しないを明確に決めることも大切なんですが、決めきれなくて当然ですし、直前で変わってもいいと思うんですよね。

患者さんがいざ選択をせまられたときに、「そういえば前に䅏田先生と話したことがあったな」と思い出してもらって、できる限り納得できるプロセスを踏めるようなお手伝いができればいいなと思っています。

——人生会議のような内容は患者さんと良い関係性でなければ話せないですよね?

そうですね。それは継続性を持って患者さんと関われる総合診療医のメリットだと思いますし、そこがやりがいでもあります。1回しか会ったことのない医者にはなかなか話せない内容かもしれません。それに1回で決めきれることではないですよね。患者さんを診続けることが僕たちの役目だと思います。

子育ては人生の中の大事な要素

——䅏田先生は先日3人目のお子さまが誕生した際に、育休を取得されたと伺いました。どれくらいの期間だったんですか?

1ヶ月です。本当に職場の皆さんのおかげですし、「幸せだな」と思いますね。男性の医者が育休を取ることに関しては、同業者や後輩の医学生などにも驚かれます。

——育休を取得するまでの経緯を教えていただけますか?

まずは妻と話し合いました。そのうえで院長の桐ケ谷先生に相談したところ、育休の取得を後押ししていただきました。職場の同僚の理解もあり、特に大きな問題もなく育休を取得することができました。

——院長に相談されるまでに葛藤はありませんでしたか?

一つのハードルとして職場での相談のしやすさがあるかもしれませんが、桐ケ谷先生は普段の診療のことも含め、本当に相談しやすい上司ですので、そこに抵抗は感じなかったですね。

また、周囲の理解やサポートにも本当に感謝しています。

——1人目のときも周りの先生みんなが育休を取得されていたわけではないですよね?そうした中なぜ䅏田先生は取ろうと思ったのですか?

医師としての仕事もそうですが、子育ても僕にとっては自分の人生の中の大事な要素だからです。

医師に限らず男性の育休取得の課題はあると思うのですが、今後は育休を取得した経験を周囲に伝えることで、さらに取得しやすい環境に変わる一助になればいいなと思っています。

患者さんやご家族、地域のリアクションを直に感じられる仕事

——䅏田先生は現在35歳ということですが、例えば40歳になったときにどうなっていたいというイメージはありますか?

今の仕事を続けていると思うので、「医者をやっていてよかったな」「医者って楽しいな」と思っていたいですね。

——そう思うためには何が必要でしょうか?

医者として「こうなりたい」という理想を追い続けていたら楽しくいられると思います。

——最後に医学生の方へメッセージをお願いします。

地域医療は「医者になってよかったな」と思える経験がたくさんあります。患者さんとの距離が近いので、患者さんとの深い関係性が築けたり、看取りなどの人生の大きなイベントに携わらせていただくこともあり、医師のやりがいを感じることができると思います。また、患者さんの背景にいるご家族や地域からもリアクションが返ってきた時も地域医療のおもしろさを感じられると思います。

地域の患者さんが健康問題で、「行き場所に困っている」「どうすればいいのか分からない」というときに相談する“医療の入口”として最初に接することが多く、とてもやりがいのある仕事です。ぜひあなたも総合診療を学んでみてください!

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