“誰も取り残さない” 高齢化40%のまち都農町が目指す地域共生社会とは 〜総合診療医編〜

「町長に就任してから大変なことがたくさんありましたが、その中でも特に大変だったことの上位にくるのが『ドクターの確保』でした」

11月におこなわれた第7回つの未来会議の中で、河野正和都農町長はこのようにおっしゃっていました。地方の小さな病院にとって、医師の確保は大きな課題だといいます。

現在、都農町国民健康保険病院には宮崎大学医学部の5人の総合診療医が常勤しています(2022年11月時点)。なぜ都農町は医師を確保することができたのでしょうか。

今回の記事では、都農町が宮崎大学医学部とともにおこなっているとりくみや、総合診療医について、第7回つの未来会議の内容も交えながらお伝えします。宮崎県内の26市町村の中で「都農町だけ!」という先駆的なとりくみについて書いていますので、ぜひ最後まで読んでみてください!

つの未来会議とは…

“次世代へのバトンを託す”がテーマ。民間企業や若い世代の人たちがまちづくりの“当事者”として議論を交わす場を目指し、都農高校跡地で開催しています。参加費は無料。主催はまちづくりに関するさまざまな事業を展開している株式会社イツノマです。

河野町長と吉村教授の出会い

冒頭にもお伝えした通り、河野町長は医師を確保するため、高校の先輩や後輩など、いろいろなつてを頼って全国を回りました。しかし、高額な報酬を用意する自治体もあり、非常に厳しい状況だったといいます。

あるとき河野町長は、東京で脳外科医をしている高校の先輩に内科の医師を紹介してもらおうと、食事会を開きました。その際に先輩から「私が町立病院に行ったとしてもお役に立てない。なぜならば私は脳の専門医だから、風邪の患者が来たときにどう対処すればよいのか分からない。脳の手術にはあらかじめ設計書のようなものがあるから、それに基づいて手術をするだけだ。私は医療人としての人生がこれでよかったのかなと思っているよ」と言われたのだそうです。

これは河野町長にとって衝撃的なできごとでした。

「地方の小さな病院に専門医は難しいのだな。ではほぼすべての人に対処できるのはどんなドクターなんだろう?」と考えていたときに、宮崎大学医学部の吉村教授に出会います。当時の医学部長から「話を聞いてみたら?」とのアドバイスを受け、河野町長は吉村教授の講演の“追っかけ”を始めました。

この2人の出会いが、現在都農町と宮崎大学医学部が提携しておこなっているさまざまなとりくみへとつながっていきます。

総合診療医は“あなた”の専門医

宮崎県シンボルキャラクター「みやざき犬」で登場

「地域共生社会」をテーマにした第7回つの未来会議に講師として登壇された吉村学教授。

宮崎医科大学(現:宮崎大学医学部)を卒業後、岐阜県久瀬村(現:揖斐川町)の診療所などで総合診療医として17年間地域医療に携わられていました。2015年からは宮崎大学医学部「地域医療・総合診療医学講座」の教授に着任し、未来の医療を担う学生の教育に力を注いでいます。

吉村教授は総合診療医について、次のように解説されていました。

「THE DOCTOR WHO SPECIALIZED TO “YOU”」 総合診療医(家庭医)は“あなた”の専門医です。痛風やうつ病、ストレスなどがあることも、どこの地区の出身でラグビーをしていたということも、すべてを知っているベースキャンプのような先生です。亡くなるまでずっと付き添います。そうした先生が世界ではヘルスケアの基本なんですよ。世界では3人に2人が 総合診療医(家庭医)、3人に1人が専門医です。日本はその逆で、100人に1〜2人が総合診療医なんですよ。私はこうしたデータを変えたいと思っています。

“0歳から107歳、骨の折れた人から心の折れた人まで、とにかく何でもみる”のが総合診療医。吉村教授は「車にひかれたサルをみてください」という依頼を丁重に断った経験もあるのだそうです。

「在宅看取り率」が県内第2位に

2020年4月、都農町は宮崎大学医学部に「地域包括ケア・総合診療医学講座」という寄附講座を開設。それと同時に、都農町国民健康保険病院は「総合診療科」を開始しました。

このことにより、宮崎大学医学部の総合診療医が都農町国民健康保険病院に常勤となりました。また、医学生が12週間連続で都農町に滞在をして実習をおこなう特別実習も実施されています。これは吉村教授と河野町長が視察で訪れたアメリカのオレゴン州・ポートランドからヒントを得たものです。

医師を確保しにいくのではなく、「都農町で医師を育てる」というしかけ。吉村教授は2015年に着任されてからこうした優秀な医師を育てるためのとりくみをしようと県内の26市町村を回ったそうですが、反応を示してくれたのは河野町長だけだったといいます。

また、これらのとりくみを始めたことで、都農町は「在宅看取り率」が県内で第2位となりました(2020年度統計)。県民の6〜8割が「人生の最期は自宅で迎えたい」と思っていても、実際はそのうちの1割ほどしかかなえられていません。都農町は1割5分と少し上乗せできており、吉村教授はこれを「どんどん増やしていきたい」と話されていました。

また、吉村教授は岐阜で総合診療医として勤務されていた時からアメリカ・オレゴン州とのつながりがあり、オレゴン州の医学生と地元の子どもたちとの交流の機会を設けていました。それを都農中学校でも実現されています。

Dr.コトーだけでなく、住民や首長、役場の人も一緒に考える

地域医療とは…

医療人・住民・行政が三位一体となり、担当する地域の限られた医療資源を最大限有効に活用し、継続的に包括的な医療を展開するプロセスである(地域医療振興協会の定義)

地域医療で大事なことは、住民や首長、役場の人も一緒になって考えること。吉村教授は「※Dr.コトーが頑張ればいっちゃが!という話ではないんです」と表現されていました。(※Dr.コトー診療所というテレビドラマの主人公)

また、講演前に直接お話しさせていただいた際、地域共生社会について次のようなお話をしてくださいました。

(医師だから)医療だけやっていればいいという時代ではありません。医師として解決できなくても、貧困などのいろいろな問題にもとにかく関わる。住民や行政も一緒になってみんなで作り上げる、みんなで学んでいく。そして大人だけでなく子どもたちにも現状を知ってもらい、一緒に考えてもらう。そういったことが大事ではないでしょうか。

吉村教授の講演やお話は医療だけでなく他の分野にも通じるところがあり、地域共生社会を実現するためには、「一人ひとりがそれぞれの役割で何ができるのかを考えていくこと」が大事なのだなと感じました。

次回は「“誰も取り残さない” 高齢化40%のまち都農町が目指す地域共生社会とは 〜介護編〜」をアップする予定です。ぜひこちらも読んでみてください!

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