誰もが活躍できる町へ。地域共生社会の実現は「働く」がキーワード
「僕は『障がい』という言葉がなくなればいいなと思っています。障がい者にとって障がいはあって当たり前。障がいのない人が『障がい』と呼んでいるだけなんです。都農町がそうした偏見のない町になったら素敵ですよね」
これは4月に開催されたつの未来会議の中で、株式会社グローバル・クリーンの代表取締役社長・税田和久さんがおっしゃった言葉です。
税田さんは日向市でビルメンテナンスや「クリーンコンサル」という独自のサービスをおこなう会社、グローバル・クリーンを経営されています。また創業時から、女性や高齢者、障がい者などの多様な人材が働きやすい職場づくりに取り組まれてきました。
今回のとりくみの記事は、つの未来会議Season3にゲストとして登壇された税田さんの講演内容をお伝えします。講演のテーマは「誰もが働くことができるまちづくり 〜働くことから始まる地域共生社会の実現〜」。
税田さんが大切にされている考え方や、誰もが働きやすい町にするためのとりくみについてお伝えしていますので、ぜひ最後まで読んでみてください!
つの未来会議とは…
立場や年齢に関係なく、幅広い層の人たちがまちづくりの“当事者”として議論を交わせる場を作ろうと、都農町のまちづくりを手がける株式会社イツノマが開催しています。
Season3のテーマは「都農高校の活用企画」。廃校活用や多世代共創のヒントを提供してくれるゲストとともに、都農町の未来について話し合います。(詳細はこちら)
グローバル・クリーン創業のきっかけ
23年前、会社員を辞めてお父さまが経営する清掃会社へ入社した税田さん。しかし、その1ヶ月後に会社が倒れてしまいます。同時に多額の借金も背負うことに。
税田さんは「両親を助けたい」「お客さまと従業員に迷惑をかけられない」という思いから、グローバル・クリーンの創業を決意します。お父さまの会社から引き継いだお客さまは3件と厳しいスタートでしたが、9名の従業員(60歳以上6名、シングルマザー1名、障がい者2名)の支えがありました。
「グローバル・クリーン」という社名には、「お客さまに世界レベルの品質を届けたい」「都会の会社に負けたくない」「『クリーン』という言葉は掃除・きれいなどのイメージがあって分かりやすい」といったさまざまな思いや意味が込められています。
「グローバル」の名の通り、税田さんは創業後にアメリカやカナダに何度も渡って世界基準の除菌清掃プログラムを学び、会社の事業に取り入れました。
誰もが働きやすい職場づくり
税田さんは「創業時に助けてくれた人たちをいつか助ける側に回りたい」という思いで経営を続けてきました。“働きづらさ”を抱えた人たちが“働きやすい”職場をつくるため、経営を「ダイバーシティ」の次の段階、「インクルージョン」にシフトしています。
ダイバーシティは多様な人材が“在籍している状態”。そしてインクルージョンとは、多様な人材が“活躍している状態”のことです。
誰もが活躍できる職場をつくるためにグローバル・クリーンが大切にしている考え方は2つ。1つ目は「ライフワークバランス」という考え方です。仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」という言葉もありますが、税田さんは10年以上前から従業員の人生設計(ライフ)が最優先という考え方を提唱しています。
2つ目は相互支援という考え方です。グローバル・クリーンでは一人ひとりの好きなこと・得意なことを伸ばし、嫌いなこと・不得意なことはカバーし合うという“お互いさまの精神”でチームづくりをおこなっています。
グローバル・クリーンの誰もが働きやすい職場づくりへのとりくみは外部から高く評価され、数々の表彰やメディア出演にいたっています。近年の外部評価・メディア露出歴を一部抜粋したものは以下の通りです。
- 2017年、「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれ、経済産業大臣の表彰を受ける。宮崎県の企業の受賞は初
- 2020年、厚生労働省発行の「中小企業の働き方改革 成功読本」に、「働きやすい職場づくり」の成功事例として掲載。この項目の掲載企業は全国で10社のみ
- 2021年、NHK「おはよう日本」の「おはbiz」というコーナーで、女性が働きやすい職場として取り上げられる(全国放送)
汚れないしくみを作る「クリーンコンサル」
グローバル・クリーンには2016年に商標登録した「クリーンコンサル」という独自のサービスがあります。これはお客さまに清掃ノウハウの指導・教育、衛生管理の改善、自立・自走のサポートなどをおこなうものです。
すでに汚れているところをきれいにするだけでなく、「最初から汚れないしくみ」をお客さまと一緒に作っています。
クリーンコンサル事業も2022年に「九州ニュービジネス大賞 奨励賞」の受賞、「宮崎県次世代リーディング企業」の認定など、高い外部評価を得ています。
クリーンの力で社会課題に挑戦し続ける
清掃業界は「3K(きつい・きたない・くさい)」とも言われるほどマイナスのイメージがある業界。税田さんは「マイナスなことを言っていても何も始まらない!」と、「マイナスをプラスに変える経営戦略」を立てて実践されています。
経営理念は「クリーンの力で社会の課題に挑戦し続ける」。税田さんは就職説明会で学生に対し、「グローバル・クリーンは清掃会社ではありません。クリーンの力で社会の課題に挑戦し続けている会社です」と伝えているそうです。
近年はどの職種においても「人手不足」が叫ばれていますが、グローバル・クリーンは3年間で新卒者7名を採用。「どんなマイナスの状況においても考え方をプラスに変えて戦略を立てれば、不可能に思われることも実現できる」という事例として、採用の話を紹介されていました。
誰もが働きやすい町に
税田さんが都農町に提案するのは「ダイバーシティ人材が活躍できる町づくり」。誰もが働ける場所を作るためにグローバル・クリーンがおこなっているとりくみの一部をご紹介します。
1. B型支援事業所の工賃向上支援
グローバル・クリーンは2013年、宮崎県内の就労継続支援B型事業所に清掃ノウハウを教える研修会「宮崎クリーン部会」を立ち上げました。これはアメリカの疾病予防管理センター(CDC)のプログラムをオペレーションとして落とし込んだ、ハイレベルな清掃ノウハウを習得することができる研修会です。
グローバル・クリーンが指導をおこなった延岡市や日向市の事業所では市役所のトイレ清掃を任されるなど、活躍の場が広がっています。
宮崎クリーン部会を立ち上げた当時、宮崎県のB型事業所の平均工賃は全国で20位でした。しかし、2022年度には4位に上昇。県の1ヶ月の平均工賃は19,631円でしたが、グローバル・クリーンが指導をおこなった事業所は約25,000円と、平均工賃の向上に貢献しています。
また宮崎クリーン部会のとりくみは「宮崎モデル」として認知が拡大中。税田さんは全国各地で講師活動をおこなっています。市役所のトイレ清掃にもたくさんの人が視察に訪れていて、税田さんはこれまでに200名以上を案内されたそうです。
2. 福祉のまちづくりフォーラム
グローバル・クリーンでは創業当時から障がい者雇用を続けていますが、2016年に「障がい者差別解消法」が施行されるまでは、清掃サービスの提供を断られるケースも多かったといいます。
「雇用しても地域社会に受け入れてもらえなければ障がい者が働く場所を作れない」という壁に直面した税田さんは、「地域の人に障がい者についてもっと知ってもらう活動が必要」と考え、2014年に「福祉のまちづくりフォーラム」を開始しました。
しょうがいのなくなる日
税田さんの夢の一つが、お掃除学校「ウルトラ・クリーンアカデミー」を作ること。講演の最後には税田さんが「ドリームプラン・プレゼンテーション世界大会」で夢をプレゼンされたときの動画を視聴しました。(プレゼン動画はこちら)
税田さんは昨年クラウドファンディングに挑戦し、プレゼンの中にも登場する絵本を1000冊制作。宮崎県内の小学校・特別支援学校に寄贈されました。
グローバル・クリーンでは創業時から多様性を持った方たちと一緒に働いてきましたが、以前は一般社員に素直に受け入れてもらうことがとても難しかったといいます。
しかし、これからはダイバーシティが当たり前の時代。「子どもたちになるべく早い段階から多様性について知ってほしい」という思いで、絵本「しょうがいのなくなる日」を出版されました。
最後にその一部をご紹介します。
男の人でも、女の人でもなく、しょうがいのある、ないに関係なく、みんながひとりの人間としてそんちょうされ、愛し、愛され、その人らしく、自分自身をみがきながら人生を切りひらいていく。それが、ウルトラクリーンアカデミーなんだよ