合言葉は「えんりょせんでいっちゃが!」地元の人と移住者、双方の“意思表示”で子育てしやすいまちに

 2021年3月、近年の少子化などを理由に、都農町内唯一の高校であった「宮崎県立都農高等学校」が閉校。都農町は都農高校跡地・校舎を県から取得し、地域共生社会を実現するための多世代交流施設として再整備する計画を立てています。

 2023年4月には都農町と、同町のまちづくりを手がける「株式会社イツノマ」が、「都農高校デザインセンター」の業務委託を受け、まず子育て世帯を対象とした空間づくりの計画実現に向けた協議に着手しました。

 また、設計に子育て中の町民の声を生かそうと「都農高校跡地活用検討委員」を募集。10名を選出し、8月から月に一度の検討委員会をスタートしています。今回のとりくみの記事では、その第2回目の様子をレポートします。

 第2回目の委員会のミッションは、「地域共生社会」を簡潔で分かりやすい言葉に翻訳すること。最終的に決まったのは予想外、かつとても素敵な言葉でした。

子どもと行く場所の理想と現在の課題

 検討委員会は委員の他に、都農町役場・まちづくり課や都農町社会福祉協議会の職員も参加。株式会社イツノマが進行・ファシリテーター役を務めています。

 第1回目は「子どもと行く場所の理想・子育て環境の課題」を「遊び、飲食店・買い物、サービス、学び」の4つに分類して考え、一人ひとり発表を行ったとのこと。第2回目の前半はそのふり返りと続きでした。委員からは主に以下のような意見が挙げられていました。

遊び

・雨の日や日差しの強い日などに遊べる場所がない。天候に左右されない遊び場がほしい

・遊具が少ない、古い。子どもがすぐに飽きてしまう

・中高生の遊び場がない

飲食店・買い物

・安全な駐車場が少ない

・子どもと気軽に入れるパン屋、花屋、惣菜屋がほしい

・ヘルシーなメニュー、キッズスペース、アレルギー対応など、子ども向けのサービスが充実したお店があるとよい

・お店に子連れ歓迎マークが掲示してあると移住者でも分かりやすい

サービス

・発達障がい等の支援、情報が不足している

・検診などで制度やサービスの情報を知れるとよい

・皮膚科、耳鼻科など子どもがよく行く専門科がない。医療の選択肢が少ない

・ケアルーム(病児・病後児保育)がほしい

・公共施設におむつ替えシート、授乳室がない

学び

・文化的な学びや体験ができる場が少ない

・習いごとが何があるか分からない。口コミでしか知れない

・親子で楽しく学べる場がほしい

・中高生が夏休みなどに勉強する場所がない。騒いでも大丈夫な自習室がほしい

 委員の約半数は町外からの移住者。他の委員の発表の中に自分が知らなかった情報があると驚く場面もあり、「もしかしたら自分が知らないだけでいろいろな支援やサービス、お店があるのかもしれない。情報を知る機会・手段がほしい」と感じている方が多い印象でした。

 また、同じ“子ども”でも、乳幼児・小学生・中高生とそれぞれの年代によって求めるものが変化するため、各年代に応じた場づくりの必要性も感じられました。

子育て世帯から見た「地域共生社会」

 委員会の後半は「地域共生社会」を翻訳するためのディスカッション。またディスカッションの前には、イツノマの代表・中川敬文さんより、厚生労働省の「地域共生社会のポータルサイト」に掲載されている、地域共生社会の定義が紹介されました。

地域共生社会とは

制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を指しています。

地域共生社会のポータルサイト

 今回のミッションはこれをさらに簡潔で分かりやすい言葉に翻訳し、委員会の中の“共通言語”を作ること。委員たちは3グループに分かれて意見を出し合い、最後に各グループの代表者が決定した言葉を発表しました。その発表内容をご紹介します。

グループ1. 「えんりょせんでいっちゃが!

 隣人に「〇〇貸してもらえませんか?」「ちょっと子どもを見てもらえませんか?」などとお願いしたときに、「えんりょせんでいっちゃが!」と言ってもらえるような環境だったら、町外から移住してきた人も頼みやすいのかなと思います。

 地元の人が“受け入れる精神”を持っているから、移住者も頼みやすい。そんな社会を子どもも理解できる「えんりょせんでいっちゃが!」という言葉で表現しました。

グループ2. 「みんなのやりがいをさがすまち」

 コロナ禍や働き方改革などでそれぞれの事情を大事にしようとし過ぎるあまり、なんとなく嘆きにくい世の中になっている気がしています。

 自分から事情を打ち明けやすい環境を作り、お互いの理解を深めたうえで、それぞれが「自分にはこういうことができる」という役割を見つけられる。役割を持つことで一人ひとりが達成感ややりがいを感じられる

 そんな社会になれば、気持ちも前向きになるし、町も元気になると思います。最終的に「みんながやりがいをさがすまち」という言葉にまとまりました。

グループ3. 「一人ひとりが個人として輝く舞台」

 どれも素敵な意見で捨てがたかったのですが、結果として、シェイクスピアの名言「この世は舞台、人はみな役者だ」の一部を拝借し、「一人ひとりが個人として輝く舞台」にしました。

 「誰もが“個人”として輝けるようになれればいいな」、そして「みんなの人生の最期が笑顔だったらいいな」と思います。「個人」という言葉を大事にしたかったのと、人生は「舞台」のように始まりがあれば終わりがあるので、この言葉を起用しました。

「えんりょせんでいっちゃが!」に続く、“意思表示”もたいせつ

 全グループの発表後、最終的に一つの言葉に集約するために再び全員でディスカッションが行われました。その中で「実際に移住者は遠慮しているのか?」という話題に。町外から移住した委員からは次のような声があげられました。

・保育園や幼稚園に入園すると、すでに仲の良い人同士のグループができている。そうしたことに疎外感を感じる人もいるのではないか

・まだ保育園に入っていない小さい子どもがいて、「ちょっとだけ見ておいてほしい」というときがある。でもベビーシッターなどのサービスがないので、あきらめざるを得ない。「そんなときお隣の方にお願いできたら…」という願望は持っている。お願いすれば受け入れてくれる方だと思うので、もっと自分が図々しくなれたらいい

一方、都農町で生まれ育った委員からは以下のような意見が。

・移住者が増えるのはとても嬉しいこと。新しいことを教えてもらえる存在だし、わくわくする。都農のことは大好きだけれど、まちをより良く変えていってほしいので、もっと移住者が増えてほしい。でも見えない壁があるのかもしれない

 現在も地元住民に受け入れる精神はあるものの、それが移住者には伝わっていない状態。これを解消するために、移住者はもっと「積極的に」、地元の人は「受け入れるよ」と、「お互いが“意思表示”をしていくことも大事」という意見でまとまっていました。

 今回の検討委員会で決まった「地域共生社会」の翻訳は、「えんりょせんでいっちゃが!」でした。もしこの記事を読んでいる皆さんが翻訳するとしたら、どのような言葉で表現しますか?これをきっかけに考えてみていただけたら嬉しいです。

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