利用者と職員は「ニワトリと卵の関係性」福祉の仕事を夢あるものに

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「朝はパン派?ごはん派?」こうした会話を耳にするほど、現代の日本人の食事に欠かせないものとなっている「パン」。

都農町には、平日のみのオープンで営業時間も短いけれども、地域の人々に愛されているパン屋があります。このパン屋を運営しているのは、社会福祉法人明和会の事業所の一つである「セサミ・ツノ」です。

今回はセサミ・ツノ代表の児玉龍郎さんに、パン屋を始められた理由や仕事をするうえで大切にされていることなどを伺いました。

利用者と地域の人々の「ふれあいの場」

ーーセサミ・ツノではどのような事業をおこなっていますか?

主に就労移行支援事業と就労継続支援B型事業の二つです。就労移行支援事業では、就職を目指す方に対して就職のあっせんや面接・履歴書作成の訓練などをおこなっています。もしくは、作業の練習をして能力を向上させていきます。

就労継続支援B型事業は、就職したいけれどもできなかった方や、就職する気はないけれども家でじっとしているのではなく体を動かしたい、おこづかいが欲しいという方へのサービスです。その事業の中でパンや焼き菓子を作ったり販売したりしています。

メンテナンスと言って、公園やトイレの清掃、アパートの管理などもおこなっています。旧都農高校のグラウンドや「道の駅つの」の花壇の管理もセサミ・ツノの仕事です。

ーーなぜ「パン屋」を始められたのですか?

ハンディキャップを持った方たちが社会になじめるような環境を作りたかったんです。地域の方たちと共に生きる「共生社会」を実現するためのふれあいの場として、一番ハードルが低かったのがパン屋でした。

工場が透明のガラスで囲われていて、店内からパンを作っている姿を見ることができるんですよ。がんばって働いている姿を見てほしいですし、健常者と何も変わらないのでパンを通じてふれあってほしいです。地域の方たちとふれあう場を提供するためのパン屋なんですよね。

施設の利用者の収入に繋げるためにスーパーなどいろいろな場所でも販売していますが、小規模であってもふれあいの場を用意する必要性がありました。

支援とは、横から手を差し伸べて導くこと

ーー児玉さんが現在の職業に就かれたきっかけは何だったのでしょうか?

社会福祉法人明和会を立ち上げたのが両親なんですよ。「規模を広げていきたいので手伝ってほしい」と頼まれて、十数年前にUターンしました。

ーー実際に仕事をされてみてどのようなことを感じましたか?

この仕事をするまでハンディキャップを持った人たちとふれあったことがなかったので、思っていたことと違うことだらけだったと思います。ダウン症や知的障がいなど有名な症状は知っていても、特性にこんなにたくさんの種類があることは知りませんでした。

最初は4ヶ月間、武者修行をさせられたんですよ。福岡にある大きな法人の5、6ヶ所ほどの施設を転々としながら勉強して戻ってきました。

ーーその武者修行によってどのような学びがありましたか?

そこでというわけではありませんが、この十数年間で分かってきたことがあります。暴れたりするし、はたから見てわがままだと捉えられるようなことをしたりする利用者もいますが、それはただの「自己主張」なんですよね。

言いたいことを伝える方法が分からない。それが集約されることによって暴れたり、大声で叫んだり、言葉が出なくて無視したりといった行動につながっていることが分かってきました。「あ、言いたいことがあるんだな」と。

悪意を持ってやっているわけではないんですよね。他に表現方法が思い付かなくてやっているだけということがようやく分かりました。

ーーこれまでの十数年間で思い出に残っているエピソードは何かありますか?

ありすぎてどれか一つというのはないですね。施設に来た当初は床にへばりついて動かなかったり、家から出てこなかったり、車から降りて来なかったりしていたこだわりが強い方も、10年ほど経つと「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」と元気いっぱいにあいさつをして入って来れるようになっています。

周りから「将来が心配」と思われていたような方でも、人並みに挨拶やマナーを学んで通所できるようになっていくと嬉しいです。自宅にいたいと思っている方が多いので、まず通えるようになるということが難しいんですよね。

ーー仕事をするうえで大切にされていることは何ですか?

二つあります。一つ目は、「やってあげる」ではなく「やれるように導く」ということです。障がい福祉施設には支援施設と介護施設がありますが、セサミ・ツノは支援施設です。「支援」を突き詰めて考えると、横から手を差し伸べるということになるんですよね。これは僕や法人の考えというよりも、自然な流れだと思います。

もう一つは、「教育」ではないということ。人の上に立って教えるのが教育とすると、人の横に立って助けるのが支援なんですよね。職員にも「教育をするのは学校であって、ここの仕事ではないですよ」と口酸っぱく言っています。

年数がかかればかかるほど「達成感」は大きい

ーーやりがいを感じるのはどのような時ですか?

やりがいというか、楽しさがありますね。それは二つあるのですが、一つ目は就労継続支援B型はやりたい事業ができることです。民間企業が事業を起こすよりも、非常にハードルが低いんですよ。そこまで人件費を考えなくていいことが大きいですね。どの事業にも手が出しやすい。これは夢があっていいですよね。

職員が出したアイデアから餃子の製造・販売を始めるなど、いろいろなことをやっています。職員のやりたいことをやらせてあげることができるんですよね。

もう一つは、ほぼエンドレスで成長を見続けられることです。保育園では保育期間しか成長を見ることができないですよね。老人介護は終末期、亡くなるまでです。障がい福祉施設では、本人が望めば16歳頃から何歳まででも見ることができます。

セサミ・ツノの利用者は知的障がいのある方が多いのですが、成長がゆっくりなんですよ。僕たちが1分で覚えられることが1年かかったり、1年かかってできなかったことも10年かけるとできるようになったりします。その瞬間は「おお!すごいじゃん!」という気持ちを味わえますよね。

年数がかかればかかるほど達成感があります。他の仕事よりも達成感を味わえるハードルが低いし、回数も多いかもしれません。

ーー職員のアイデアから餃子の製造・販売を始めたというお話がありましたが、意見が通りやすい環境というのはとても良いですね。

夢のある仕事にしていきたいですよね。イメージがあまり良くないし、実際のところ給与もそこまで良くないので、どうしても働き手が少ないんです。せめて夢が持てるような仕事でありたいと常日頃から思っています。本来労働は対価があってのものなので、この業界で対価を求めることができないのであれば、その代わりになるものを提供していきたいです。

その一つが職員のやりたいことを積極的にやらせてあげられるという部分かなと思います。何か企画を持ってきたら、「うん、やってみたら?」と極力やらせるようにしているんです。企画書はきちんと出してもらいますけどね。

職員がいなければハンディキャップを持った方たちのためのスペースを用意することはできません。逆にたくさんの方が施設を利用してくれるから職員を雇うことができます。ニワトリと卵の関係性ですね。そのバランスをうまく取りながら大きく成長させていくことが僕らの使命です。

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